
【3つの要素】西国三十三所観世音菩薩巡礼のシリーズでもご紹介済みですが、こちら散歩写真コーナーでも別の観点から清水寺を見てみたいと思います。清水寺は京都随一の集客力を誇る人気ナンバーワンの寺院です。ではなぜにここまで人が集まるのでしょうか。当たり前ですが清水寺はお寺であります。有名タレントの何かがある訳でもなく、ブーム絶頂の何かがある訳でもありません。それでも人が集まるのは、そこには3つの要素がありそれぞれシナジーを持って存在しているからと言えます。

1つ目は、寺の持つ構成要素それぞれが人に興味を持たせ、人を惹きつける「素材力」を持っていると言えます。2つ目は四季それぞれの「自然的要素」もうまく人のお出かけ心をくすぐるようで、まるでタイマーが掛かっているかのように人々が集まってきます。更に3つ目はここ清水寺に至るまでの道のりが、この寺つまりメインイベントまでの序章のように広がっていて、最終的にはここに人が来ざるを得ない状況になるという、「地勢学的」にも稀な好要素をも持っているから、と分析することができます。

【素材力】素材力というのは、各建物の持つ歴史的価値、貴重度、質の高さ、珍しさ、面白さ、およびそれらが次々に現れるという配置状況において、来る人の好奇心や満足度をしっかり掴み満たすことができるものを持っているということです。

特に清水寺本堂の舞台に関しては他では見られない特殊な素材であり、あらゆる要素を持っているスターだと言えます。舞台がスターというのも面白いです。この舞台に上がると誰でも思うことは同じで、江戸時代初期によくこれだけのものを作ったなという感嘆と、江戸時代の木造建築にこれだけ大勢乗って大丈夫かなという不安です。

ところでこの13メートルもの高さがある檜の舞台ですが釘を使わずに組み上げられており、崖にかなりの部分がせり出しています。要は崖の上の高さに合わせるために懸造り(かけづくり)で組み上げて、崖の上の部分を広くしているわけです。このようなことをしてまで舞台を作ったのは、もちろん京都の街を眺めるための展望台ではなく、御本尊の観世音様に舞を奉納するためです。よって、向きとしては内側向きが正しい向きとなります。


【自然的要素】これはそのまま、四季それぞれで素晴らしい景色を見ることができると言う事です。まだ木の芽が出てこない葉の無い季節は唯一の例外ですが、この沈黙を破るかのように、4月に桜が咲くと同時に人々のタイマーも作動しスイッチが入ったかのように集まってきます。それ以降は立て続けに人が切れる事はありません。5月頃の新緑が一斉に出始める頃は、朱塗りの三重の塔と青もみじの取合わせが素晴らしいです。夏の京都は盆地特有の猛暑が連日続きますが、不思議とこの時ばかりと言わんばかりに人が集まってきます。清水まで行けば涼しいかもとでも感じさせているのでしょうか。秋は舞台周りの木々が一斉に紅葉します。舞台からもしくは舞台をバックに撮影するととても絵になります。

紅葉の時期は特に混み合いますが、さらに夜間特別拝観も実施されます。この夜間拝観ですが、昼間の部とは完全入れ替え制で実施され、夜のオープン前には受付前にものすごい長蛇の列ができ、とにかく大変な状況です。寺内の各所がライトアップされ、紅葉が池に反射して浮かび上がる幻想的な景色が見事です。冬については正直言ってあまり撮影に向いた季節ではないと思っておりますが、なぜならお寺のお堂特有の日本的建築意匠と木々の緑が合わさっての景色に惹かれるものがあるからです。枝に葉の無い季節はやはり物足りなさを感じてしまいます。ただ降雪の日は、お堂の屋根に薄っすら積もった雪がかえってお堂の輪郭をはっきりとさせて、ちょっと別の景色に見えたりして意外な発見ができると思います。




【地勢学的要素】地勢学とはかなり大袈裟ですが、京都は他の都市には無いような興奮と落胆の感情に繰り返し襲われる構造を持った街だと言えます。新幹線に乗って久しぶりに京都駅で降りてあの薄暗い、原広司氏設計の駅ビルの広いアトリウムに出て京都タワーがちらりと見えたりしたら、あー京都だ!と誰もが興奮を感じると思います。じゃまずは清水寺だとバス乗り場へ移動しますが、バス停は長蛇の列で団体客がごちゃごちゃ並んでいてどこが終わりかわからない状態です。いざバスに乗ると、欧米人観光客の巨大なスーツケースが車内に溢れ、「清水道バス停」で降りる際も一苦労です。この時点で多少高揚感が薄れていますが、八坂の塔が見えた瞬間にはやっと本当の京都に来たと感じて、興奮が復活し坂を登る足が速まります。

二年坂や産寧坂、ねねの道、石塀小路あたりは京都で最も京都らしさを感じる事ができるエリアです。古風な建築に和風のしつらえの土産物店、格子窓をあしらったカフェ、和傘を飾った食事処、石畳に石塀、板張壁の道など。日頃、量産化と費用削減効果だけの建築素材に囲まれ、斬新ではあるけれど面白みや楽しさなどを感じられない空間で過ごしていると、こちらでのこの時間がとても和み人間的であるとさえ感じます。

八坂の塔から登ってきた人はそのまま産寧坂へ、ねねの道から来た人は一年坂、二年坂から産寧坂へ、そして産寧坂まで来た人の選択肢はもう清水坂へというルートしかありません。この付近に足を踏み入れた場合、経てきた人々は自然と清水坂まで誘われ、あとわずか先にちらりと見える清水寺の楼門に目的地の存在を確信します。この地理的な集客効果があってこそ、というのが地勢学的要素の説明です。
清水五条駅から来る人はさほど多く無いと感じますが、広い五条通りの歩道といささか距離のある道のりで人がバラけるのでしょうか。五条坂下あたりに来て信号待ちをしていると、急に狭くなった歩道に人が溢れそうになっていて、どこからこんなに人が来たんだと思ってしまいます。五条坂は途中に観光バス用の駐車場がある関係で坂道にバスが連なり渋滞し、狭い歩道と相まって非常に歩きづらいです。特に見所もないので、ここはすぐに曲がって茶碗坂に行くのがいいかと思います。
また、五条からのルートの場合これとは別にお勧めの道があります。それは大谷本廟脇の道を登って行くルートです。(途中まで大谷本廟を通って、お参りしてから行きたいです。)途中墓地に出ますが細い道は続いています。やがて直接清水寺に到着します。これですと歩きづらい歩道とは無縁で清水寺まで行けます。



清水寺では、夜間特別拝観の時は明確に一筆書きで順序を設定されて回りますが、一般のときもたいていは楼門から入って階段を登り本堂でお参りして、地主神社や奥の院を回った後、階段を下り音羽の滝を目指すと思います。こうして階段を下りて崖下の下段の方に来ると大方の人は再度上に登ったりせず、土産物店や食事処に寄りつつ池の脇を通って出口へ向かいます。土地の形状とお堂の配置がうまく組み合わさって構成されており、混雑していても案外スムーズです。
清水寺まで登ってきて、一通りお参りした帰りの下り坂では結構お疲れでしょう。祇園の花見小路周辺には特に一見さんお断りでは無い、良い感じの京料理店がいくつもあり昼ならそう高くはないので、せっかくなのでぜひ行ってみてください。